短期間で一つをモノにする勉強のやり方

以前チョロっと実践してみてけっこう役に立ったし、博士課程にいる間にもっとやっておけばよかったと反省しつつ、まとめる。
大きくざっくりつかんで、大事なところだけを切り出す - ある生物系博士課程大学院生の日記

コンセプト

博士課程にいる間に一つのことだけを研究するってことはない。考察するために他分野を学ぶこともあるし、研究の幅を広げていくためにも興味のある分野の勉強をするのも大事。


そのためには、今までに慣れ親しんで研究してる所に加えて新しい分野や知見、異分野の常識を学ぶ必要がある。かといってチョコチョコインプットしてもなかなかモノにならないし、全体像をつかみ損ねそう。ここでは、1-2週間程度を目安に「自分にとって新しい分野・事項を学ぶ」ための方法をまとめる。

達成目標

「言葉ぐらいは聞いたことがあるけどよく知らない」という分野を、1-2週間ぐらいの短期間でササッと、「この分野のキーワードにはこんなのがあってそのうちこの3-5つが大事なところで、それに関する研究はこんな状況」と解説できるようになること。さらに、自分の研究分野と絡めて、新しい研究テーマにつながるような洞察まで行けるとステキ。

勉強方法

  1. 目的設定:学びたいことを見定める(1日-
  2. 文献収集(日本語):サクッと(1時間
  3. 読む:サラッと(1日
  4. 文献収集(英語):腕の見せどころ(1日
  5. 読む:ガッツリ。必要に応じて新たに情報収集。(1週間
  6. まとめる:情報を整理・統合する(1週間

1.目的設定:学びたいことを見定める(1日-)

「学びたいこと」を設定する。人の発表を見てて思いついたものでもいいし、問題意識を持ってずっと温めてたものでも良い。

「学びたいこと」は、キーワードという形で表現する。ここが頑張りどころで、想像力を働かせて、何も見ない状態でキーワード出しをする*1
→中心的なキーワードを3-4つぐらいに絞る。*2

この「3-4つ」が、「自分が学びたいものを表現している」ことが大事。これはGoogle検索的に考えること*3

例:肥満体質
「肥満、体質」というキーワード2つだと、対象分野がめちゃくちゃ広い。Google検索したらたくさん出てくるのが容易に想像できる。
ここで、「遺伝、遺伝子」と加えてみたり、「食物、栄養の消化吸収」、「運動の頻度」と加えると、だいぶ絞れるはず。
(肥満体質を例示に使ってくけど、架空の話です)

経験的には、キーワード3つで「知りたいこと」が十分に表現されてる場合、既存の情報が少なくて新規性が高い分野。キーワード4-5個ぐらいで絞り込めていれば十分だと思う*4。あと、この後の過程でも随時キーワード追加を行っていく。

2.文献収集(日本語):サクッと(1時間

書きだしたキーワードをベースにした検索で情報を集める。自分の場合、日本語文献のほうが英語文献と比べて5倍ぐらい情報摂取効率が良い気がするので、日本語文献を多めにして先に読む*5。目安は以下。

教科書(日本語):1-3冊。通常のGoogle検索やAmazon大学生協書店、図書館などで探す。できれば古くないものを。
Review(日本語):1-10本。たくさんある程よい。
Article(日本語):1-10本

教科書は、部分に行く前に全体を押さえるのに使い、他の文献を読んでて困ったときにも参照できる。論文はGoogle Scholarから検索すると日本語文献のみを集めれていい感じ。検索結果の一覧からも新しいキーワードが拾えることだろう。

3.読む:サラッと(1日

教科書と日本語文献はキーワードを拾うのと、キーワード間の関係性をつかむ*6のを目的にして読む。


まず、教科書をサラッと見る。関係の深いところはある程度丁寧に読んで、自力で出てこなかったキーワードを拾っていく。1-3時間で十分?
次に、日本語総説をさくさくっと読む。精読せずに5本を30分-1時間で眺めるぐらいの速さで。

日本語文献は、よほど大事なものでなければ「ふーん、そんなトピックもあるんだ」ぐらいで*7。以上3つの日本語情報は、「必要なときに戻ってこれる」ようにしておけると良い。日本語文献が一番手軽にアクセスできるので、総説などを読んでキーワードを絞ってから教科書を選ぶのでも良いかも。んで、日本語文献をひと通りさらってから、キーワードを練りなおして英語文献探しに行く。

4.文献収集(英語):腕の見せどころ(1日

日本語をひと通りさらってからの英語文献調査が大学院生の腕の見せどころ。大学院生ぐらいになれば、必要なもの、良い情報だけを集めるための指針を持ってるはず。

集める目安
Review(英語):3-5本
Article(英語):3-10本

まずは総説選び。多少古いものが混じっても良いけど、ど真ん中のトピックについては5年以内ぐらいのものを一つ。合わせて5個ぐらい見つけておきたい。
次にOriginal article探し。Google Scholarで検索すると、ジャーナル・引用数も表示されるのでこの辺を指標にして大事な論文を集める*8。コアな文献がある程度そろったら、根っこになってそうな古い論文や、同じグループの別論文、最新の論文を押さえる。

5.読む:ガッツリ。必要に応じて新たに情報収集。(1週間

ガッツリとはいえ、手早く進めたい。初めに設定した目的にそって読む。Figure/Tableを中心に理解を進め、必要に応じてイントロや考察、結論を読んだり。関係ない所はとりあえず飛ばして、大事なとこだけ押さえたら次の論文読みor関係のある論文探しへ。

6.まとめる:情報を整理・統合する(1週間

読みながら、キーワードごとのつながりを整理していく。整理されたものが、「今自分が知りたいことに対する答えとなる知見(の集まり)」になってれば良い。新しい研究テーマ作りにつなげるなら、最新の論文を見た上で「どこからわかってないか」まで整理できれば良し。


全体を2週間ぐらいで済ませて、「その研究分野の全体像がフワッとわかり、自分の興味のあるところは最先端まで説明できる状態」になってれば理想的。

キーワードについて*9

キーワード選定、言葉使い、表現方法が、「言葉を介した意思伝達」の要であるのは間違いない。たぶん、はじめは「自分が知りたいこと」を的確に表現することすら難しい*10。「抽象>具体」や、対立する概念のグラデーションを考えながらキーワードを見つけ選んでいく。んで、このプロセスを一周し終わった頃に、「俺の興味があるのはこの辺のキーワードで表現できそうだなー」と思えてれば良いんだと思う。

健康の概念:健康>生活習慣病>肥満−やせ
要因:遺伝要因(遺伝子、SNP、優性/劣性)−環境要因(食事・栄養、運動量)
パラメータ:年齢、性別、体重、BMI、血糖値、摂取カロリー、運動量

使える情報源

Google Scholar
PubMed
KAKENデータベース
Amazon


など。研究者を志す博士課程であれば、英語ベースで情報収集できるといいんだろう。きっと。

おわりに

途中が長引いて間延びした記事になった気がするけどまあいいや。あと、要する期間の説明が適当になってしまったけど、このプロセスを刻んだりせずに、短期間で集中的にやれればそれでいいと思う。

*1:ここでは多ければ多いほど後で使えるので良い。マインドマップを使ったり、メモ用紙ぐらいに雑に書き出す

*2:クリティカルなキーワード一つでその後が大きく変わるので知りたいところをつかみそこねないように頑張る

*3:Google検索的な思考法は大事だと思うのでいずれ別に書きたい

*4:それ以上が必要であればキーワードの選び方、表現に問題がある可能性が高い

*5:日本語文献だけでは世界的な最先端にはいけないし、そもそも知りたいど真ん中の文献がない場合もあるのを承知のうえで入門用に

*6:「ヤセ体質には消化吸収に関係する遺伝子もちょっとは関係あるんだな」、「具体的にはこの3つぐらいの遺伝子がよく出てくるな」、みたいに

*7:最先端はどうせ英語なんだから精読不要

*8:タイトルだけすごそうなものや情報としての価値が低いものはジャーナルや引用回数である程度見当がつく

*9:言わずもがな、かもだけど一応

*10:「肥満体質について知りたいんです!」では広すぎて、「知りたくて、短期間で知ることが可能なこと」になっていない