研究のタイプを考える

前置き

前回のエントリに書いた通り、全面的に納得だけど、あえて自分なりにまとめたりする練習。今回は「学位論文のタイプ」の項目について。
「大学院・研究者を目指す人へ」を読んで - ある生物系博士課程大学院生の日記

学位論文のタイプ

以下の4つが挙げられている主なタイプだけど、とりあえず学位論文にかぎらず、また、理論とか実験とか考えず、ひとまず科学全体の営みを考える。
http://web.mac.com/masaoamano/Masao_Amanos/for_future_graduate_students.html

1.伝統的なタイプの学位論文は、新奇な予測を出して、それを客観的に検証し、その仮説が不利な条件で成り立つか確認するという、演繹的な形のものである。これができるのは稀で、評価は高い。
2.重要な研究の基礎的な部分への批判。これも稀で、うまくできれば価値が高い。
3.純粋に理論的な論文。経験主義者が多くいる研究室では特に勇気がいるが、数学とか論理が得意であればやり遂げられるだろう。
4.だれでもまとめられるようなデータを集めた論文。学位論文としては最も質が低いが、いざとなれば、うまくいくだろう。ある種のヒトは、たとえ仮説が検証されていなくても、大量のデータがあるだけで感心する。少なくとも、結果はあなたが一生懸命がんばったことを示すようにすること。それで審査委員会から学位をゆすりとるのだ。

科学=ブロックを積み、ピラミッドを作ること、と考える

科学の営みとは、ブロックを積んでピラミッド状の構造物を作る作業だと思ってる。科学において論理性や整合性は不可欠で、先人の発見の上にさらに発見を積み重ねることが科学の営み。科学は、無分別かつSpontaneousに、より横方向に広く、縦方向に高いピラミッドを形成していく。イメージにするとこんな感じ。

ブロック

発見=ブロックは置かれた瞬間に過去のものとなり、あとからやってくる研究者による検証を受けたり、その発見を前提・背景とした次のブロック積みが行われる。
良いブロックとは、

  1. 既存の背景にかっちり噛みあい、次のブロックを起きやすくする
  2. ニッチな分野など、新しい分野で低次元のブロックを広げる
  3. その研究分野で最初の、新しく高次元におくブロック
  4. などなど

科学とはどんどん積み重ねていく営みだけど、「その一箇所のブロックが大事!!」*1みたいに、すごく重要だったり、あるいは一般的に還元されるための出口となるブロックがあったりもする。そういうだいぶ上の方にあるブロックを認識し、その研究分野をひっぱっていくのがボスクラスの仕事と思われる。

研究分野:

横方向・縦方向いずれにもある程度の大きさを持った研究テーマ群のこと。

  1. 裾野の広がりが、直近のジャンルの将来性*2
  2. 目標となる、ある程度高次元で手の届かないところに目標があるほうがいろいろな研究が進みやすそう
  3. 目標とされていたブロックが置かれ、次の目標がない場合、その研究分野の仕事はないことになる。*3
裾野

横方向に綺麗に敷き詰められていると、その上にブロックを置きやすくなる。裾野が広いと、研究分野も広く、将来性が高い。

次元(あるいは階層)

低い次元をまんべんなく敷き詰めることで、それを基にその下により高い次元のブロックを積むことができる

研究者として目指したいところ
  1. ないところにブロックを積むこと、それ自体が新規性*4。だけど、周りのブロックとかけ離れすぎてたり、いきなり高い次元においたりすると科学界の役に立たない、もしくは直近には役に立たない。だから、既存のブロックにぴったり寄り添うようなブロックを置きたい。そのためには、背景のしっかりした理解が不可欠。
  2. そのジャンルにおいて、ブロックが置かれていない次元に最初のブロックを置くこと、それが斬新さ。
  3. 基本的には横に並べていく研究がほとんど、銅鉄だろうがなんだろうが、ブロックが横にしっかり並んでないと縦方向には積み上げられない。おろそかにしてはいけない

もちろん、研究者それぞれに自分の研究目的があるので、他人にとっても良い背景になるブロックを置けるかどうかは、やってみないとわからない。次のブロックを置く人は、自分でしっかりと背景の理解・構築をする必要がある。大事なのは、背景を理解することなしに、良いブロックを置くことはできないということ。

本題に戻る

先述の学位論文のタイプについて、学位論文にかぎらず
研究全般で考えて自分なりの解釈・分類は以下(1-3は図に示す)
1.かっちりと隙間を埋めるように横方向に広げる研究
2.既存の土台を壊し、もう一度作り直す研究
3.とりあえずつながりのないところに土台っぽい石を作ってみる研究
4.ニッチ分野などで新しいジャンルを築く研究
自分だったら、1・2・3のどれかを目指したい。3は「イシューからはじめよ」で言うところの「犬の道」的な研究といえる。

その他

教科書とは

最新ではないが、カチッと作り上げられ、変更の余地がなさそうな、かつ、それなりに裾野が広がった大きな土台に関する包括的な記述。一方、Review Articleは、教科書の前段階みたいなもので、教科書を作るほど大きな土台ではないものに関するまとめ。

自分の研究について

半年ほど前に、それまで自分がしている研究についてしっかりした土台が下にないことに気づいた。論文にはなっても、他の研究とシェアしている土台がないから引用もされないだろうし、新しい分野ともならない。そこで、今まさにその必要な土台を作るための研究を並行して進めてる。大学院2年目も終わりに入ってから始めたけど、本来は大学院入学直後に気づくべきだったところ。まあ、Never too lateだと思うので、今そこに気づいて、それをやれてることは嬉しく思ってる。

参考文献

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

あと、本エントリの図はCacooで描いてみた。最後の手入れをしてないから見づらくなってるけど、使い勝手が良くてけっこう書きやすかった。
Online Diagram and Flowchart Software | Cacoo

*1:いろいろな発見・技術のもとにiPS細胞が生まれたわけだけど、そのブロックによってこれまでの土台をひっくるめた社会への還元が可能となり、また、科学界においては研究分野がさらに広がっていく重要な発見、みたいな感じ

*2:成熟した分野で新たな伸びしろを作る、という仕事もある

*3:だから研究分野を衰退させないために「新しい目的となるブロック」の発見・定義付けが必要

*4:リサーチプロポーザルでは、周辺のブロックの置かれ具合、そのブロック自体の必要性、いかにそのブロックをしくのか、を語る